「あなたの名前を呼べたなら」

(2018年 インド・フランス)

 経済発展が著しいインドの大都会・ムンバイ。
 建設会社の御曹司であるアシュヴィン(ヴィヴェーク・コーンバル)と、住み込みのメイドとして働く農村出身の19歳の未亡人・ラトナ(ティラトマ・ショーム)との間で紡がれる純愛を通して、なぜ階級差をわきまえない行為としてタブー視されなければならないのか、を真摯に問いかける秀作である。
 兄の死により、作家への夢半ばにアメリカから呼び戻され、仕事も結婚も両親の望みに従う日々を送る中、婚約者の素行が元で破談にも直面していたアシュヴィンは、自らの未来に希望を見い出せないでいた。
 そんな彼に、病死した夫との結婚はたったの4カ月に過ぎなかったのに、死ぬまで婚家に繋ぎ止められていること、それでも自らの働きにより、婚家だけでなく、妹の学費をも仕送りできる喜びを、ラトナは静かに語りかけた。
 彼らを隔てた目に見えない壁は、その日を境にして消えていった。ファッションデザイナーへの夢に向って生きているラトナの勇気にも打たれた彼は、心からの応援者になろうとする。
 そんな2人の行く手に、因習という厚い壁が立ちはだかる。2人は果たしてその壁を乗り越えることができるのだろうか。
 未だ体験者も現れない、困難きわまる問題への映画化に挑戦したのは、ムンバイ出身の女性監督であるロヘナ・ケラ。監督デビュー作となった本作が、インド社会の不条理を正す一助となることを願ってやまない。
因習の壁に向かう愛は